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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)9737号 判決

原告 川崎市商工信用組合

右代表者代表理事 成宮徳左衛門

右訴訟代理人弁護士 増田彦一

被告 山本善二

右訴訟代理人弁護士 宮文弘

主文

1、被告は原告に対し、金四五〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三六年一〇月二六日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

3、この判決はかりに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、被告は原告に対し、つぎのような約束手形一通をその支払拒絶証書作成の義務を免除して裏書き譲渡し、原告は現にこれが所持人である。

金額 金一、一五〇、〇〇〇円、満期 昭和三六年一〇月二五日、支払地および振出地 東京都千代田区、支払場所 株式会社大和銀行丸の内支店、振出日 白地、振出人 東洋工機株式会社、受取人および第一裏書人 紀之岡産業株式会社、第一被裏書人欄 白地

二、ところが、昭和三六年一〇月二三日訴外東日本鉱業株式会社代表者板倉誠およびその使用人神農昭二が原告方において原告営業部長本橋勝治からすでに原告の所持に帰した前記約束手形を見せて貰うや、やにわに右手形の振出人欄に押捺してある東洋工機株式会社取締役堀河政人名下の印影部分と氏名の一部とをもぎとり、自己の口中にそのもぎとつた部分を入れて呑み込んでしまつた。

三、原告はその後右約束手形の振出日欄を適法に昭和三六年八月二日と補充したうえ右その満期に支払場所において、右手形を支払いのため呈示したが、その支払いを拒絶された。

思うに、右約束手形が原告に裏書き譲渡されたときは適式な方法によつて記載されていたもので、その満期の数日前右約束手形について何ら権限もない者によつて右部分が毀損せられたとしても、約束手形の効力に何ら影響を及ぼすべきものではない。

そこで、原告は被告に対し右約束手形金のうち金四五〇、〇〇〇円およびこれに対する満期後である昭和三六年一〇月二六日から支払いずみまで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払いを求める。

と述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告の請求原因事実中一および二の各事実は認める。三の事実は知らない。

と述べた。

証拠として、≪省略≫

理由

(本件手形に対する被告の裏書きと本件手形の所持人)

被告が原告に対し、金額 金一、一五〇、〇〇〇円、満期 昭和三六年一〇月二五日、支払地および振出地 東京都千代田区、支払場所 株式会社大和銀行丸の内支店、振出日 白地、振出人東洋工機株式会社、受取人および第一裏書人 紀之岡産業株式会社、第一被裏書人欄 白地の約束手形一通を、その支払拒絶証書作成の義務を免除して裏書き譲渡し、原告は現にこれが所持人であることは当事者間に争いがない。

(満期における右約束手形の効力)

右手形の満期前である昭和三六年一〇月二三日訴外東日本鉱業株式会社代表者板倉誠およびその使用人神農昭二が、すでに原告の所持に帰した前記約束手形のうち、その振出人欄に押捺してある東洋工機株式会社取締役堀河政人名下の印影部分と氏名の一部をもぎとつて毀損したことは当事者間に争いのないところである。そうして右事実によれば、右板倉誠および神農昭二は何ら右手形の要件を抹消もしくは毀損する権限がなかつたものと認められる。このように権限のない者によつて手形要件が毀損されたとしても、その毀損が、手形の同一性を害する程度に至らないかぎり有効に成立した手形上の権利には何らの消長も来さないものと解されるところ、前記毀損の程度では未だ本件手形の同一性が害されたものとは認め難いので、満期における右約束手形の効力にはいささかの変動もないものというべきである。

(手形の呈示および支払いの拒絶)

右約束手形の振出日欄が原告によつて満期日までに適法に昭和三六年八月二日と補充されたことについては、被告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

証人本橋勝治の証言ならびに同証言および弁論の全趣旨によりその原本および成立を認めることができる甲第二号証の一、二を綜合すると、原告は右手形をその満期に支払場所において支払いのため呈示したが、その支払いを拒絶されたものであることを認めることができる。この認定を左右する証拠はない。

(結論)

以上の各事実を合わせ考えると、被告に対し、右約束手形金のうち金四五〇、〇〇〇円およびこれに対するその満期後で昭和三六年一〇月二六日から支払いずみまで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払いを求める原告の本訴請求は理由があるから認容すべきである。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 逢坂修造)

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